東京高等裁判所 平成4年(ネ)2120号 判決 1994年10月05日
控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)
野村靖
右訴訟代理人弁護士
青木達典
被控訴人
小柴節子
被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)
斉藤昌子
被控訴人
笠松智枝
被控訴人・附帯控訴・人(以下「被控訴人」という。)
渡辺八重子
被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)
関秀子
被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)
牛嶋美佐子
被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)
塩満光江
右七名訴訟代理人弁護士
渥美雅子
同
村井瑛子
同
山田由紀子
同
大島有紀子
同
清田乃り子
主文
一 被控訴人小柴節子、同笠松智枝、同関秀子に対する本件各控訴に基づき、かつ、被控訴人斉藤昌子、同渡辺八重子の各附帯控訴に基づき、原判決中、右各被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
1 控訴人は、被控訴人小柴節子に対し金八〇八万二三五〇円、同斉藤昌子に対し金七六三万〇六五〇円、同笠松智枝に対し金八七一万六二四〇円、同渡辺八重子に対し金八三三万五七〇〇円、同関秀子に対し金一五八万一三三〇円及び被控訴人小柴節子、同斉藤昌子、同笠松智枝、同渡辺八重子については右各金員に対する昭和五六年五月一日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人関秀子については昭和五六年八月八日から支払いずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 被控訴人小柴節子、同斉藤昌子、同笠松智枝、同渡辺八重子、同関秀子のその余の請求を棄却する。
二 被控訴人斉藤昌子、同渡辺八重子、同牛嶋美佐子、同塩満光江に対する本件各控訴及び被控訴人関秀子、同牛嶋美佐子、同塩満光江の各附帯控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人と被控訴人小柴節子、同斉藤昌子、同笠松智枝、同渡辺八重子、同関秀子それぞれとの間に生じた分は、いずれもこれを五分し、その四を控訴人の負担とし、その余を被控訴人小柴節子、同斉藤昌子、同笠松智枝、同渡辺八重子、同関秀子それぞれの負担とし、控訴人の被控訴人牛嶋美佐子、同塩満光江に対する控訴費用、被控訴人牛嶋美佐子、同塩満光江の附帯控訴費用は、それぞれ各自の負担とする。
四 この判決は第一項1に限り仮に執行することができる。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 平成四年(ネ)第九九一号控訴事件
(一) 控訴の趣旨
(1) 原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(二) 控訴の趣旨に対する答弁
本件控訴を棄却する。
2 平成四年(ネ)第二一二〇号附帯控訴事件
(一) 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決中、被控訴人小柴節子、同笠松智枝を除く被控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
(2) 控訴人は、被控訴人斉藤昌子に対し一〇六三万〇六五〇円、被控訴人渡辺八重子に対し一〇三三万五七〇〇円、被控訴人関秀子に対し四六九万一三三〇円、被控訴人牛嶋美佐子に対し六〇万一九九〇円、被控訴人塩満光江に対し一九五万三〇五〇円及び被控訴人斉藤昌子、同渡辺八重子の各金員に対する昭和五六年五月一日から各支払いずみまで年五分の割合による金員、被控訴人関秀子、同牛嶋美佐子、同塩満光江の各金員に対する同年八月八日から各支払いずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
(二) 附帯控訴の趣旨に対する答弁
本件附帯控訴を棄却する。
二 当事者の主張
当事者の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 控訴人の医師歴について
原判決九一枚目裏八行目の冒頭から同九二枚目表八行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。
二 被控訴人小柴の損害賠償請求について
1 控訴人の被控訴人小柴に対する診療経過については、原判決九二枚目裏一行目の冒頭から同一〇七枚目裏一一行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決九三枚目表二行目の「こともなかった」を「こともなく、健康状態は良好であった」に改める。
(二) 同九三枚目裏一〇行目の「(ただし、一部)」を削る。
(三) 同九四枚目裏七行目の「前記の」を「多少の」に改め、同九行目の「幾度となく」の次に「腹部付近を押して」をそれぞれ加える。
(四) 同九四枚目裏二行目の「研究所」の次に「(以下「千葉研究所」という。)」を加え、同三行目の「膣」を「子宮の内膜」に改め、同一一行目の「しまう。」の次に「悪いところは全部取ってしまう。」を加える。
(五) 同九六枚目表一行目の「あり、」の次に「乙六号証及び」を加え、同二行目の「しかしながら」から同九六枚目裏二行目の「。」までを「しかし、被控訴人小柴の子宮等の状態に関する右記載部分は、前示の超音波断層撮影による写真と符合しない内容であり、また、乙A号各証を精査しても、右各検査に対応する結果の報告書等が全く見当たらず、さらに被控訴人小柴の身体の症状にかかる主訴についても、被控訴人小柴本人尋問の結果に照らすと右記載と異なる事実を認めることができる。これらの事実を合わせ考えると、乙A一号証の一、二の前記記載部分は真実に反する記載がなされているのではないかとの疑いが残るので、右記載部分及びこれに沿う乙第六号証の記載部分、控訴人本人の供述(原審・当審)は採用し難い。」に改める。
(六) 同九七枚目表八行目の「七分」を「五分」に、同九行目の「同研究所」を「千葉研究所」にそれぞれ改める。
(七) 同九七枚目裏三行目の「陽球菌」を「腸球菌」に改める。
(八) 同九八枚目表一〇行目の「乙A第一号」から同九九枚目表三行目の「他方」までを削る。
(九) 同九九枚目裏三行目の「られた。」の次に「控訴人からもこの点の事前の説明がなく、」を、同六行目の「と言い、」の次に「自己の身体の保全のためにやむをえないと考えた」をそれぞれ加える。
(一〇) 同一〇〇枚目表三行目の「乙A第一号」から同八行目の「ないし、」までを削る。
(一一) 同一〇一枚目表一行目の「乙A第一号証」から同七行目の「ないし、」までを削り、同八行目の「一号証の一」を「二号証の一」に改める。
(一二) 同一〇二枚目表九行目の「右附属器」を「左附属器」に改める。
(一三) 同一〇二枚目裏一行目の丸括弧及び括弧内の記載部分を削る。
(一四) 同一〇三枚目表二行目の「開くと」を「開く。」に改める。
(一五) 同一〇四枚目裏三行目の「により推認される・」を「から」に改め、同六行目の「ある」の次に「ことが推認される」を加え、同八行目の冒頭から同一〇五枚目表三行目の「できない。」までを「乙A第一号証の二七の記載は後記のとおり採用し難く、」に改める。
(一六) 同一〇六枚目表一一行目の「小柴は、」の次に「同年三月末から四月初めころ、外泊許可を申出たところ、控訴人から安静にしているように言われたことがあったが、」を加える。
(一七) 同一〇六枚目裏一一行目の「乙A第一号」から同一〇七枚目裏三行目の「限りでなく、」までを削る。
(一八) 同一〇七枚目裏六行目の「より認められる」を「よれば」に、同九行目の「ある」を「あり、被控訴人小柴はその後カンジダ膣炎の治療を受け治癒した」にそれぞれ改める。
2 乙A一号証の二七、ないし三四の各記載について
乙A一号証の二七には、被控訴人小柴の入院した昭和五五年二月四日から手術がなされた翌日の同月一〇日までの同被控訴人に対する診察結果の記載があり、控訴人本人の供述中にはこれに沿う部分がある。しかし、右診療録により同月八日までの部分を見ると、同月の四日の欄に「腹部膨満感、抵抗感、圧鋭敏感」、五日の欄に「腹壁 抵抗感、圧鋭敏感」、六日の欄に「腹壁 広範囲に抵抗感、圧鋭敏感」、七日の欄に「腹壁 抵抗感、圧鋭敏感」、八日の欄に「腹壁 広範に抵抗感、圧鋭敏感」とあるほか、四日、五日、六日の各欄に「微熱がある」、五日の欄に「子宮内容除去術、絨毛膜脱落膜、出血少量」、七日の欄に「腰痛、咽頭痛、下腹部痛、」と記載されているが、右証拠を全体として見ると、控訴人が、診察の際に記載したと考えるには、あまりにも整然とした体裁で記載されているだけではなく、ほぼ同様な表現でそれほど変化のない内容で被控訴人小柴の診察結果を繰り返して記載しているなど不自然な点が認められる。乙B第一号証の三、二六によれば、控訴人は、被控訴人斉藤に対する診療録では、三か月の間に八日分の診察結果が、乙C第一号証の四四、四八、四九によれば、控訴人は被控訴人笠松に対する診療録では、約六か月半の間に一一日分の診察結果の記載があるに過ぎず、記載内容に変化が見られることと比較しても、被控訴人小柴に対する前記診療録には著しい不自然さが認められる。また、乙A第一号証の二四、二五によれば、控訴人は同月四日、被控訴人小柴から採血したことが窺われるのに、乙A第一号証の二七にはその記載がない(他にも、右採血を記載した診療録等は見当たらない。)。さらに、乙A一号証の二七の同月九日の欄中に「下腹部痛、腰痛を示した」、同月一〇日の欄中に「下腹部痛を示した」との記載があるが、これは乙A二号証の一一(被控訴人小柴の看護記録の一部)の右同日欄の記載と齟齬している。これらの点に照らすと、右記載を含む乙A一号証の二七は、診療の合間にその都度記載されたものではなく、後日、同一時期にまとめて適宜の内容で作成されたのではないかとの強い疑いが残るところである。
また、乙A第一号証の二八ないし三四の記載中には、控訴人が被控訴人小柴に対しほぼ毎日診察し、同被控訴人の腹壁に圧鋭敏感、抵抗感等の疾患があった旨の部分があり、控訴人本人の供述中には右記載に沿う部分があるが、右記載部分や供述部分には乙A第二号証の一ないし五と齟齬する部分(乙A第一号証の二八の昭和五五年二月一二日欄に下腹部痛の記載があるが、乙A第二号証の一二の同日欄にはその記載がない。)もあり、乙A第一号証の二八ないし三四の記載の仕方にも、その体裁が整然としていること、内容の類似性、記載の頻度などの点において、乙A第一号証の二七の記載と同様の不自然さが認められるものであり、同書証と同様な疑いが残るところである。
したがって、乙A第一号証の一、二(これについては前に判示した。)、二七ないし三四の右各記載はそのまま採用することはできない。
なお、診察、治療の経過の判断について最も重要な証拠の一つである診療録についてこのような重大な疑問のあることは、ひとり被控訴人小柴に関する事件のみでなく、他の被控訴人の同種の事件についても、控訴人本人の供述やその他の控訴人側の証拠の信用度に大きな疑問を生じさせる性質のことであるといわなければならない。
原本の存在とその成立に争いのない甲H第九ないし三七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲H第四八号証の一、二、被控訴人関の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、昭和五五年九月中旬ころから、控訴人病院で診療を受けた者から千葉県の君津郡・木更津医師会等に対し、控訴人病院の診療に不審の点があるとの苦情が相次いで寄せられるようになり、同年一一月中旬ころに日本母性保護医協会の医師である理事らが控訴人の作成した診療録十数件分を調査した際に診療録に記入すべきものとされている症状その他の日暦に記入漏れがあり、調査をした右理事らが控訴人に対してこれでは手術との因果関係を判断できないとして厳重な注意をしたことを認めることができること、本件の原審訴訟記録によれば、被控訴人小柴、同斉藤、同笠松、同渡辺が原審の第一回口頭弁論期日(昭和五六年六月二二日午前一〇時)において、右各被控訴人に対する診療録、手術記録、病床日誌、検査所見、温度板、細胞診検査報告書及び臨床病理組織検査報告書の提出命令の申立てをしたところ、任意の提出を促されたと見られる控訴人は原審第一五回口頭弁論期日(昭和五八年五月二四日午前一〇時)に漸く右各文書のほぼすべてを書証として提出したことを認めることができること及び前記のような書証の体裁、内容に照らすと、右各書証は、千葉地方裁判所により昭和五五年一二月一七日に証拠保全の措置が取られていることを考えても、前記各書証の作成過程については診療時ではなく後日に作成されたのではないかとの強い疑いが生じるところであるが、この点について断定まではし難いものがある。
3 診療契約に基づく債務の不履行
(一) 被控訴人小柴に対する診断内容、汎発性腹膜炎等の症状、所見に関する認定については、原判決一〇八枚目表二行目冒頭から同一一〇枚目裏八行目の「できる。」までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 原判決一〇八枚目表四行目の「附属器炎、」の次に「慢性」を加え、同一一行目の「陽球菌」を「腸球菌」に改める。
(2) 同一〇九枚目裏六行目の「ところ、」を「である。控訴人は、初診時の問診によれば、被控訴人小柴は、非常に長い既往歴があること、非常に強い腰痛、下腹部痛、微熱、全身状態は非常に悪くて、心不全が起きていること、倦怠感が非常に強いことを慢性汎発性腹膜炎と診断した根拠に挙げている。しかし、」に、同一〇行目の「膣」を「子宮の内膜の」にそれぞれ改める。
(3) 同一一〇枚目表三行目の「部分は、」の次に「同月二日に採取した右分泌物について」を、同五行目の「検査」の次に「等」をそれぞれ加える。
(4) 同一一〇枚目裏二行目の「いない」の次に「(控訴人本人は、慢性汎発性腹膜炎と診断した一つの根拠として、問診により知った非常に長い既往歴の経過を挙げるが、問診で知った病歴の内容については、曖昧で不自然な供述に終始している。また、日本グラクソ株式会社は、控訴人代理人に対する回答書―甲第五〇号証の二―の中で、「慢性の汎発性腹膜炎というような疾患はないと思う。」と述べている。)」を加える。
(二) 前記事実によれば、控訴人は、被控訴人小柴に対し、検査結果を考慮することなく、問診により知った多少の腰痛や帯下と内診だけで、初診時に汎発性腹膜炎、子宮炎、附属器炎と診断し、保存療法など他の治療方法の当否を検討することなく、子宮単純全摘出等の手術を必要であるとしてこれを勧め、かつ、実施したのは早急というほかなく、また、その後明かになった血液学検査や生化学検査の結果等を考慮することなく、右初診時の診断、治療方法を維持したことは誤りであったというべきである。また、甲H第三九号証、第四九号証の二、第五一号証、甲H第五〇号証の一、三及び弁論の全趣旨によれば、細菌感染症の治療において抗生物質等と抗菌薬を投与するときは、急性の尿路感染症のときは三日、慢性の場合でも五日をめどとして投与して無効であれば、この抗菌薬の投与はその細菌に対して不適切であるとして見切りをつけるべきであるとされており、抗生物質を長期間使用すると、膣内のカンジダ菌が菌交代現象により異常に増殖してカンジダ膣炎になることが認められるが、控訴人は、被控訴人小柴に対し、その膣分泌物から検出された腸球菌にセファロスポリン系の抗生物質であるセハロジンの感受性がないことの判明した昭和五五年二月一〇日ころ以降も同年四月八日に同被控訴人が退院するまで連日同じセファロスポリン系の抗生物質であるシーティー二グラムその他の薬品を投与し、その結果同被控訴人は、前示のとおり同年三月二七日にカンジダ膣炎になったということができる。
そうとすると、控訴人の右行為は、診療契約に基づく医師の債務の不完全履行に当たり、控訴人は、被控訴人小柴に対し、右債務不履行により同被控訴人が被った損害を賠償する義務がある。
4 被控訴人小柴の損害
控訴人が被控訴人小柴に賠償すべき損害は、治療実費八万二三五〇円及び慰謝料八〇〇万円合計八〇八万二三五〇円をもって相当と考えるが、その理由は、原判決一一三枚目裏七行目冒頭から同一一四枚目表八行目末尾までに説示するとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決一一四枚目表七行目の「一〇〇〇万円」を「八〇〇万円」に改める。
5 したがって、被控訴人小柴の本訴請求を右の限度で認容し、その余を棄却し、これと判断を異にする原判決を変更することとする。
三 被控訴人斉藤の損害賠償請求について
1 控訴人の被控訴人斉藤に対する診療経過
(一) 原判決一一四枚目裏一行目の冒頭から同一二三枚目表七行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 原判決一一五枚目表九行目の「同日」を「昭和五三年五月一七日」に改める。
(2) 同一一五枚目裏四行目の「二五、」の次に「乙第七号証、」を、同一一行目の「横」の次に「径」をそれぞれ加える。
(3) 同一一七枚目表一行目の冒頭の「る」の次に「乙第七号証の記載部分、」を加え、同六行目の「二四、」を削り、同七行目の「第五号証、」の次に「乙第七号証、」を加える。
(4) 同一一七枚目裏一行目の「をし、」の次に「心電図をとり、」を加え、同八行目の「いた。」の次に「体温は、入院時から手術の日までほぼ平熱であった。」を加える。
(5) 同一一九枚目表四行目の「原告小柴」を「乙第七号証(一部)、控訴人斉藤」に改める。
(6) 同一一九枚目裏四行目の「病名を」の次に「癒着性子宮筋腫、」を加える。
(7) 同一二〇枚目裏三行目の「できない。」の次に行を変えて「控訴人は、虫垂の摘出については、被控訴人斉藤の事前の承諾を得ていなかった。」を、同九行目の「見合う」の次に「乙第七号証、」をそれぞれ加える。
(8) 同一二一枚目表一行目の「乙」の次に「B」を加え、同九行目の「六、」を削り、同行目の「一部)」の次に「、乙第七号証(但し、一部)」を加える。
(9) 同一二一枚目裏一行目の「同月」を「六月」に改め、同九行目、一〇行目の「ナトリウム、」を削る。
(10) 同一二三枚目表一行目の「六、」を削り、同二行目の「一部)」の次に「、乙第七号証」を加え、同五行目、六行目の「改ざんされた可能性が高く」をいずれも削る。
(二) 控訴人は、虫垂の摘出については、被控訴人斉藤の申出によるものであると主張するが、同被控訴人は、虫垂の摘出については事前に控訴人から告げられたことを否定しており、この点について、控訴人本人も、手術の途中で同被控訴人の夫から承諾を得たのかもしれない趣旨の原審供述をしていることに照らすと、同被控訴人の承諾を得て右摘出手術をしたとは認められず、その他同被控訴人の承諾を得たことを証するに足りる証拠はない。
控訴人は、昭和五三年五月一七日に細胞診、組織診を行ったと主張し、これに沿う控訴人本人の原審供述があるが、右結果を記載した記録が診療録等にはないので、右主張は採り難い。
2 診療契約に基づく債務の不履行
(一) 当裁判所は、控訴人の被控訴人斉藤に対する診療が同被控訴人に対する診療契約に基づく債務の不完全履行に当たると判断するものであり、その理由は、原判決が同判決一二三枚目表九行目の冒頭から同一二七枚目裏六行目の末尾までに説示するとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 同一二五枚目裏九行目の「微生物」の次に「千葉」を加える。
(2) 同一二六枚目裏三行目の「時に」の次に「検査結果を考慮することなく、前記の問診、内診だけで」を加え、同四行目の「誤りであり、」を「誤りであるというほかはない。」に改め、同行目の「しかも」から同六行目の「である。」までを削る。
(3) 同一二七枚目表一行目の「としても、」の次に「この点は証拠上明らかではなく、」を加える。
(二) 控訴人は、手術適応の子宮筋腫等との診断に誤診はなかったと主張するけれども、前記認定によれば、控訴人は、血液学検査の結果の判明する前にこれを考慮することなく、また他の諸検査や診断方法を実施することなく、被控訴人斉藤に対する問診と内診の結果だけで右診断をしているものであり、しかも臨床病理組織検査結果や鑑定の結果は、右診断を裏付けるに足りるものではなく、むしろこれを否定するものもあるのであるから、他に右診断を肯定するに足りる事実がない以上、前記問診と内診の結果だけでは右診断をするのは行き過ぎというほかはない。
3 被控訴人斉藤の損害
控訴人が被控訴人斉藤に賠償すべき損害は、治療実費六三万六五〇円及び慰謝料七〇〇万円合計七六三万〇六五〇円をもって相当と考えるが、その理由は、原判決が同判決一二七枚目裏八行目冒頭から同一二八枚目表九行目末尾までに説示するとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決一二七枚目裏九行目の「A」を「B」に改める。
(二) 同一二八枚目表七行目の「こと」の次に「、控訴人の誤診及び不必要な手術により臓器の摘出などの身体に重大な損傷を被ったこと」を加える。
(三) 同一二八枚目表八行目、九行目の「五〇〇万円」を「七〇〇万円」に改める。
4 したがって、被控訴人斉藤の本訴請求は右の限度でこれを認容し、その余は棄却し、これと判断を異にする原判決を変更することとする。
四 被控訴人笠松の損害賠償請求について
1 控訴人の被控訴人笠松に対する診療経過
(一) 原判決一二八枚目裏二行目の冒頭から同一三八枚目表四行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 原判決一二八枚目裏五行目の「五三」を「五二」に改め、同七行目の「一部)、」の次に「乙八号証(一部)、」を加え、同行目の「斉藤」を「笠松」に改める。
(2) 同一二九枚目裏二行目の「二〇日」の次に「〕」を加え、同行目の「ごろに」の次の「〕」を削り、同四行目の「それが」から同五行目の「かかわらず、」までを削り、同行目の「笠松は、」の次に「同日午前中に控訴人の診察を受けたが、」を、同六行目の「そうだ」の次に「、母子ともに危険だ」をそれぞれ加える。
(3) 同一三〇枚目表三行目の「部分があ」の次に「り、控訴人本人は、むくみ、高血圧と蛋白が出るので右診断をしたと供述(原審)す」を、同七行目の「部分」の次に「及びその他の診療関係の記録」をそれぞれ加える。
(4) 同一三〇枚目裏三行目の「は後日に」から同四行目の「明らかである」までを「及び控訴人本人の右供述には疑問が残るところである」に改める。
(5) 同一三一枚目裏一行目の二番目の「一四」を「一五」に改め、同四行目の「なく」の次に「(子宮破裂に関する診断の記載もない。)」を加え、同一〇行目の「診察を」を「診察や同人に対する相応な措置を迅速に」に改める。
(6) 同一三二枚目表六行目の「後日」から同七行目の「できる」までを「直ちには信用し難い」に、同行目の「第一号証の一」を「第二号証の二ないし一三」にそれぞれ改め、同八行目の「できないし、」の次に「乙第八号証の記載及び」を、同行目の「供述」の次に「(原審、当審)」をそれぞれ加える。
(7) 同一三三枚目表二行目及び同一三四枚目表末行の「アルカリフォスターゼ、」をいずれも削り、同一三三枚目表三行目及び同一三四枚目裏一行目の「低く、」の次に「アルカリフォスターゼ、」を加える。
(8) 同一三四枚目表四行目の「もなく、」の次に「腹部痛、腰痛もなく」を加え、同行目の「同年」を「昭和五三年」に改める。
(9) 同一三四枚目裏六行目の「腹腔」の次に「、腹膜」を加える。
(10) 同一三五枚目表一行目の「旨の記載部分」から同一三六枚目表四行目の「できない。」までを「旨の記載部分が直ちに信用し難いことは前記のとおりであり、右子宮筋がもろく、炎症所見が強く、少々壊死があった旨の記載部分は、同号証の二によれば、前者の記載部分と同一時期にこれと一体として筆記により記入されたことが認められ、これに被控訴人笠松の前記の身体の状態、検査結果を合わせ考えると、直ちには信用し難いというほかはない。甲C第一号証、乙C第二号証の一、第四号証の一、乙第八号証、控訴人本人の原審供述によれば、控訴人は、同月一八日の時点で、被控訴人笠松について、腹膜炎、強度の癒着性子宮、子宮炎、子宮膿瘍、腹腔膿瘍、慢性結合織炎、慢性腹膜炎と診断して手術を施行したこと、右診断については、診察時の状況、病名が診療録に全く記載がなく、前記帝王切開手術時の所見に基づくものと認められるが、右手術時の所見を記載した乙C第三号証の二の記載が前示のように信用し難く、これに被控訴人笠松の前示の身体の状態、検査結果を考えると、控訴人の右診断は直ちには採用し難いものがある。なお、乙C第四号証の二中には、子宮摘出手術の所見の記載が、甲C第一号証中にはその概要を図示した部分があるが、同様に信用し難い。」にそれぞれ改め、同一〇行目の「研究所が」の次に「前示のとおり」を加える。
(11) 同一三六枚目表四行目の「したがって、」の次に「乙第八号証の記載及び」を、同一〇行目の「研究所が」の次に「前示のとおり」をそれぞれ加える。
(12) 同一三六枚目裏七行目から八行目にかけての「あって、右事実に照らして」を「り、被控訴人笠松についても、控訴人は、同研究所に病理組織・塗抹細胞検査依頼をした際、申込書に臨床診断として『腹膜炎、子宮炎、癒着性子宮、子宮腫瘍』と記載して手術又は局所所見を記載していること(甲C第一号証)から、同研究所が病理組織検査において控訴人の記載した臨床診断ないし手術・局所所見の影響を受けた可能性が疑われることに照らすと、乙C第五号証の右記載は」に改める。
(13) 同一三七枚目表八行目の「右の」から同一一行目の末尾までを削る。
(二) 控訴人は、被控訴人笠松について昭和五三年一月一八日には子宮破裂の危険があると診断したと主張し、これに沿う乙第八号証の記載及び控訴人本人の原審供述があるけれども、同被控訴人は同日に右診断結果を告げられたことを否定しており、右診断は重要な事項と考えられるのに同被控訴人にかかる診療録の昭和五三年一月一八日の欄にはその旨の診断の記載はなく(右記載のない理由について、控訴人は首肯し得る説明をしていない。控訴人本人は、原審で、同日の診察内容について記憶なく、子宮破裂の診断は入院時であるとも供述する。)、控訴人からこのような診断を受けているという同被控訴人が同月二〇日夜入院した際も、翌二一日の午前中までの間について見ると、控訴人が同人を診察したことの記載がなく、いわんや子宮破裂に関係する記載がないことから見ると、控訴人は入院後直ちに診断しておらず、控訴人は右時点で子宮破裂の危険を認識していなかったと見るほかないから、控訴人主張のように同月一八日に前記診断がなされたことは疑わしいものがあり、控訴人本人の右供述は採り難いということができる。
2 診療契約に基づく債務の不履行
控訴人は、前示のとおり、被控訴人笠松には、骨盤内ないし腹腔、腹膜内に何らの炎症がないか、あったとしてもごく軽微なものであるのに、検査結果や同被控訴人の身体の状態等を十分に考慮することなく、同被控訴人の病状を前示のとおり重症の腹膜炎等にり患していると診断し、保存的療法による治療の当否について十分な検討をすることもなく、子宮等の摘出手術に適応した疾患であるとして右手術を含む治療を内容とする診療契約を締結し、その後手術を施行し、続いて、その予後の治療のため約五か月半に及ぶ不必要な入院を余儀なくさせたものである。控訴人の同被控訴人に対する手術適応の疾患とする右診断は、誤ったものであり、診療契約に基づく医師の債務の不完全履行に当たり、控訴人は、右債務不履行により同被控訴人の被った財産的、精神的損害を賠償する義務がある。
3 被控訴人笠松の損害
控訴人が被控訴人笠松に賠償すべき損害は、治療実費七一万六二四〇円及び慰謝料八〇〇万円をもって相当と考えるが、その理由は、原判決が同判決一三九枚目裏四行目の冒頭から同一四〇枚目表四行目の末尾までに説示するとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決一三九枚目裏七行目の「診療費等」の次に「(昭和五三年二月分以降の分)」を加え、同行目の「九五万六三〇〇万円」を「七一万六二四〇円」に改める。
(二) 同一四〇枚目表二行目の「生じていること」の次に「長期間の不必要な入院に伴う生活上著しい支障を生じたこと」を加える。
(三) 原判決一四〇枚目表三行目から四行目にかけての「一〇〇〇万円」を「八〇〇万円」に改める。
4 したがって、被控訴人笠松の本訴請求は右の限度で認容し、その余を棄却し、これと異なる原判決を変更することとする。
五 被控訴人渡辺の損害賠償請求について
1 被控訴人渡辺に対する診療経過
(一) 原判決一四〇枚目表八行目の冒頭から同一五〇枚目裏七行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 原判決一四〇枚目裏三行目の「富津市」を「君津市」に改め、同一〇行目の「一部)、」の次に「控訴人本人尋問の結果(当審)により成立の認められる乙第九号証(一部)、」を加える。
(2) 同一四一枚目表七行目の「やすい」の次に「、腹が腫れぼったい気がする、白い下りものが少しある」を加える。
(3) 同一四一枚目裏二行目の「た。」の次に「被控訴人渡辺は控訴人の内診を長いうえにえぐられるように痛く感じ、同被控訴人は控訴人から痛いかと聞かれ、痛いと答えた。」を加え、同八行目の「、さらに」を「により」に改める。
(4) 同一四二枚目裏一行目の「る」の次に「乙第九号証及び」を、同行目の供述部分」の次に「(原審、当審)」をそれぞれ加える。
(5) 同一四三枚目表三行目の「第一号証の」の次に、「三、」を、同行目の「二五、」の次に「前掲」を、同五行目の「一部)、」の次に「乙第九号証、」をそれぞれ加える。
(6) 同一四四枚目表二行目の「七日」の次に「に血液学検査を、」を加え、同行目の「及び」を削り、同行目の「一二日に」の次に「同検査及び」を加え、同五行目の「生化学」を「血液学」に改め、同一一行目の「麻酔医の協力も得ずに」を削る。
(7) 同一四四枚目裏六行目の「ところで、」の次に「鑑定人岩沢博司の鑑定の結果によれば、」を、同九行目の「病名は、」の次に「掻爬後再生子宮内膜、」をそれぞれ加え、同行目の「軽度の卵管」を「限局性卵管」に改める。
(8) 同一四五枚目表一行目の「できない」の次に「とされる」を、同三行目の「する」の次に「乙第九号証の記載部分及び」をそれぞれ加える。
(9) 同一四六枚目裏二行目の「二五」を「二六」に、同二行目の「に後日」から同三行目の「ある。)」までを「の理由で信用し難い。)また、乙D第四号証については、同研究所が、前示のとおり、被控訴人笠松の子宮ブロック等につき作成したプレパラートを紛失していることや控訴人が被控訴人小柴の手術で切り出した子宮膣部等のプレパラートからは治療や手術適応に結びつく所見は認められないのにかかわらず、同研究所のした右臓器の病理組織学的診断では、子宮筋腫、繊維性腹膜炎となっていることを考慮すると、」に、同六行目の「後記」から同七行目の「から、」までを「後記の理由で」に改める。
(10) 同一四七枚目表一行目の「乙D」の次に「第一号証の九、」を、同行目の「五、」の次に「乙第九号証(一部)、」をそれぞれ加え、同二行目の「、一一、一四」を削り、同行目の「一九」を「一八」に改め、同行目の「第二号証の」の次に「二ないし四、同号証の」を加える。
(11) 同一四七枚目裏一行目の「二二日」を「一二日」に改める。
(12) 同一四八枚目表一一行目の「反する」の次に「乙第九号証及び」を加え、同行目の「できないし、」を「できない。」に改める。
(13) 同一四八枚目裏四行目の「すなわち」から同一五〇枚目表六行目の「できる。」までを削る。
(二) 乙D第一号証の二五ないし三〇は、被控訴人渡辺に対する診療録の一部であり、同号証の二五には昭和五五年四月四日から手術日の同月一二日までの、同号証の二六ないし三〇には手術後から同被控訴人の退院した同年五月二三日までのそれぞれ同被控訴人に対する診察結果の記載があるが、右証拠を全体として見ると、手術の前後それぞれについて、ほぼ連日、整然とした体裁で、同様な表現でそれほど変化のない内容が二、三行づつ丹念に繰り返し記載されており、右各書証は、その形式、内容を、前示のような被控訴人斉藤、同笠松に対する診療録とを対比して見ると、控訴人が診察の際にその都度その結果を記載したと見るには極めて不自然というほかなく、後記のとおり、後日、同一時期にまとめて適宜の内容で作成されたのではないかとの強い疑いが残るので、右各書証は、直ちには信用し難いものがあるといわなければならない。
原本の存在とその成立に争いのない甲H第九ないし三七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲H第四八号証の一、二、被控訴人関の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、昭和五五年九月中旬ころから、控訴人病院で診療を受けた者から千葉県の君津郡・木更津医師会等に対し、控訴人病院の診療に不審の点があるとの苦情が相次いで寄せられるようになり、同年一一月中旬ころに日本母性保護医協会の医師である理事らが控訴人の作成した診療録十数件分を調査した際に診療録に記入すべきものとされている症状その他の日暦に記入漏れがあり、調査をした右理事らが控訴人に対してこれでは手術との因果関係を判断できないとして厳重な注意をしたことを認めることができること、本件の原審訴訟記録によれば、被控訴人小柴、同斉藤、同笠松、同渡辺が原審の第一回口頭弁論期日(昭和五六年六月二二日午前一〇時)において、右各被控訴人に対する診療録、手術記録、病床日誌、検査所見、温度板、細胞診検査報告書及び臨床病理組織検査報告書の提出命令の申立てをしたところ、任意の提出を促されたと見られる控訴人は原審第一五回口頭弁論期日(昭和五八年五月二四日午前一〇時)に漸く右各文書のほぼすべてを書証として提出したことを認めることができること及び前記のような各書証の記載の体裁、内容に照らすと、右各書証は、千葉地方裁判所により昭和五五年一二月一七日に証拠保全の措置が取られていることを考えても、前記各書証の作成過程については診療時ではなく後日に作成されたのではないかとの強い疑いが生じるところであるが、この点について断定まではし難いものがある。
2 診療契約に基づく債務の不履行
控訴人は、初診時に被控訴人渡辺に対し、切迫流産の疑い、子宮膣部糜爛、汎発性腹膜炎、子宮炎、附属器炎、結合織炎と診断し、同被控訴人に腹膜炎とだけ告げて入院手術を勧めているが、同被控訴人は、問診に際し、体がちょっとだるい、疲れ易いなどと述べており、控訴人の内診所見は前記のとおりであったこと、超音波断層診断をしていること、腹膜炎は前示のような症状を示すことを考えると、控訴人が同被控訴人の疾患について骨盤内の炎症を疑ったことを不相当な診断ということはできない。
しかし、被控訴人渡辺は、初診時に前記主訴はあったものの、健康体で調理人として普通に稼働していたものであり、下腹部痛、腰痛を訴えておらず、控訴人は乱暴ともいえる双合診により同被控訴人に無理に腹痛を生じさせたことを認めることができるうえ、控訴人は血液学検査や生化学検査等の結果に基づかないで前記診断を下している。乙第九号証、控訴人本人の原審供述中、右認定に反する部分は、被控訴人渡辺本人の供述に照らし採用し難い。また、昭和五五年四月一日に行われた生化学検査、血液学検査、同月七日に行われた血液学検査の結果にも、前示のように特記しなければならない程の異常な結果は見られない。これらの事実に、被控訴人渡辺から摘出された子宮膣部、子宮体部、卵管組織の三個のプレパラートを総合判断して考えられる同被控訴人の病名が掻爬後再生子宮内膜、軽度の子宮腺筋症、限局性卵管周囲炎であることを考え合わせると、控訴人が検査を経ずに保存療法などの他の治療方法の当否を検討することなく、初診時の段階で被控訴人渡辺に対し手術適応のある汎発性腹膜炎とまで診断したのは早急に過ぎるというべきであり、さらにその後も前記検査結果を考慮せずに右診断を維持したことは誤りであったというべきである。仮に、被控訴人渡辺が子宮腺筋症にり患しており、これについて手術適応の可能性があったとしても、前記診断や検査結果からは、他の療法などの当否を検討することなく直ちに子宮及び左附属器摘出手術の適応があると診断することは相当ではない。右手術の点について、控訴人は、臨床医として蓄積した永年の経験と知識により前記の診断に及んだものであり、客観的な根拠はないと述べるに止まり、格別合理的な説明をしない。また、控訴人は、前示の経緯により子宮及び左附属器の摘出手術を施行したものであり、右手術内容について被控訴人渡辺の明確な承諾を得ていたということはできない。結局、控訴人は、手術の適応性の診断を誤っただけではなく、同被控訴人の明確な承諾を得ることなく同人の子宮、左附属器の摘出手術を施行し、その後も長期にわたる入院治療を継続させたものであって、控訴人の行為は診療契約に基づく医師の債務の不完全履行に当たり、控訴人は、同被控訴人に対し、右債務不履行により同被控訴人の被った損害を賠償する義務がある。
3 被控訴人渡辺の損害
被控訴人渡辺の損害は、治療実費三三万五七〇〇円及び慰謝料八〇〇万円をもって相当と考えるが、その理由は、原判決一五三枚目裏一行目の冒頭から同一五四枚目表四行目の末尾までと同一であるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決一五三枚目裏九行目の「有していた」を「有していないわけではなかった」に改める。
(二) 同一五四枚目表三行目の「六〇〇万円」を「八〇〇万円」に改める。
4 したがって、被控訴人渡辺の本訴請求を右の限度で認容し、その余を棄却し、これと判断を異にする原判決を変更することとする。
六 被控訴人関の損害賠償請求について
1 控訴人の被控訴人関に対する診療経過
(一) 原判決一五四枚目表八行目の冒頭から同一六三枚目表六行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決一五五枚目表七行目の「〕」の後に「被控訴人関は、前記診察を求める趣旨を告げ、」を加える。
(2) 同一五五枚目裏二行目の「ている。」の次に「腹膜炎である。」を、同九行目の「していた。」の次に「しかし、控訴人は、流産の危険があることを告げて、その防止のための投薬などの措置をとることはしなかった。」を同一一行目の「する」の次に「乙第一〇号証の記載部分及び」をそれぞれ加える。
(3) 同一五六枚目表一行目の「また」から同裏七行目の「できる。」までを「なお、乙E第一号証の二中には、昭和五四年九月一七日被控訴人関に対する切迫流産の疑いの診断をした旨の記載があり、同号証の八中には、同被控訴人が同日に無月経である、同月一四日朝に性器から少量の出血があった、腹部に膨満感があると訴え、同被控訴人のゴナビス検査をしたところ、(一)であったが、被控訴人関は今日は時間がない、来週診察に来る旨の記載があるが、控訴人本人尋問の結果(当審)により成立の真正の認められる乙第一〇号証、控訴人本人の供述(原審、当審)によれば同月一七日には控訴人は同被控訴人の診察をしておらず、控訴人の妻が同被控訴人の訴えを聴いて検査をしたうえ診療録に右記載をしたことが認められる。」に改める。
(4) 同一五六枚目裏九行目の「内膜炎」の次に「、左附属器炎」を加える。
(5) 同一五七枚目表七行目の「右のように」を「ようやく」に改め、同八行目の「あり」の次に「(このことは、乙第一〇号証中の被控訴人本人の陳述及び原審における控訴人本人の供述によっても認められるところである。)」を加え、同一一行目の「あるから」を「あり、控訴人本人も、後日に判明した事項をカルテの当日欄ではなく、過去の日の欄にかくことがあり、右記載部分も後日に記載したことを自認するかのごとき供述をしていることを合わせ考えると、」に改める。
(6) 同一五七枚目裏一行目の「後日改ざんしたものである」を「事実に反する記載がなされたものである」に改め、同二行目の「でき」の次に「、右診断には信用し難いものがあ」を加える。
(7) 同一五八枚目裏六行目の冒頭から同八行目の「あり、」までを、同一一行目の「乙E」から同一五九枚目表二行目冒頭の「、」までをそれぞれ削る。
(8) 同一五九枚目表二行目の「同号証の二」を「乙E第二号証の一」に改め、同五行目の「部痛も」の次に「少しはあったが弱いものであり、」を加え、同行目の「ことを(」を「ことを認めることができる。」に改め、同七行目の「原告関」から同一〇行目の「できるから、」までを削り、同一〇行目の「右記載部分は」から同一一行目の「)、」までを「右記載部分は、同被控訴人本人尋問の結果に照らし、かつ、同じ診療録の乙E第一号証の九が前記のように信用できないことにも照らし、そのまま採用することができない。」に改める。
(9) 同一五九枚目裏八行目から同九行目の「共に」を削る。
(10) 同一六二枚目表二行目の「する」の次に「乙第一〇号証の記載部分及び」を加え、同八行目の「また」から同裏九行目の「できない。」までを「乙E第一号証の一四、一五、一七ないし三三は、被控訴人関に対する診療録の一部であって、昭和五四年一一月六日から昭和五五年三月三一日までの同被控訴人に対する診察結果の記載があるが、右証拠を全体として見ると、僅かな例外を別とすれば、ほぼ連日、整然とした体裁で、ほぼ同様な表現でそれほど変化のない内容が二、三行づつ丹念に繰り返し記載されており、右各書証は、その形式、内容を前示のような控訴人の被控訴人斉藤、同笠松に対する診療録と対比して見ると、控訴人が診察の際にその都度その結果を記載したと見るには極めて不自然というほかなく、前示(四の1の(二))のとおり(但し、被控訴人関が文書提出命令を申し立てたのは、原審昭和五六年(ワ)第七四六号事件第一回口頭弁論期日―昭和五六年九月一四日午前一〇時であり、控訴人が右文書を書証として提出したのは、同事件第一四回口頭弁論期日―昭和五八年五月二四日午前一〇時である。)、右各書証についても、後日、同一時期にまとめて適宜の内容で作成されたものではないかとの強い疑いが残るので、右各書証は、直ちには信用し難いものがあり、乙第一〇号証の記載中これに沿う部分も同様である。」に改める。
2 診療契約に基づく債務の不履行
(一) 原判決一六三枚目表八行目冒頭から同一六五枚目表八行目の「できる。」までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 原判決一六四枚目裏一行目の「ので」から同三行目の「あった」までを削る。
(2) 同一六五枚目表八行目の「できる。」の次に「限局性腹膜炎については、乙E第二号証の一(温度板)には記載があるものの、乙E第一号証の二(診療録)には病名の記載がなく、診断の客観的根拠についても控訴人の合理的説明がなく、右診断については曖昧な点が多い。」を加える。
(二) これらの事実に照らすと、流産を慮って診断を依頼した被控訴人関に対し、各種の検査を経ることなく、控訴人が問診、内診だけで初診時に入院治療適応のある限局性腹膜炎と診断したのは早急であって誤診というべきであり、さらに、その後一一月二二日に、各検査結果を考慮することなく同被控訴人に対し入院治療適応のある腹膜炎と診断して前記診断を維持したことも誤診というべきであり、このため同被控訴人に入院又は通院による治療を余儀なくさせたものであり、さらに、これに加えて、治療のために必要として連日シーティー一日二グラムを長期投与し、その結果カンジダ膣炎を誘発させたものである。そうとすると、控訴人の行為は診療契約に基づく医師の債務の不完全履行に当たり、控訴人は、同被控訴人に対し、子宮内容除去術施行による入院は当日程度で足りると認められるから、少なくともその翌日の昭和五四年一一月一六日以降の入院治療により被った損害を賠償する義務があるが、さらに初診時における妊娠に関係した点を除く診療により同被控訴人が被った損害も賠償する義務がある。
3 被控訴人関の損害
控訴人が同被控訴人に賠償すべき損害は、治療実費五八万一三三〇円及び慰謝料一〇〇万円合計一五八万一三三〇円をもって相当と考えるが、その理由は原判決が同判決一六六枚目表六行目の冒頭から同裏五行目の末尾までに説示するとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決一六六枚目裏四行目の「原告関の」の次に「不必要な治療を受けることにより被った生活上の支障、」を加える。
(二) 同四行目から五行目にわたる「一五〇万円」を「一〇〇万円」に改める。
4 したがって、被控訴人関の本訴請求を右限度で認容し、その余を棄却し、これと判断を異にする原判決を変更することとする。
七 被控訴人牛嶋の損害賠償請求について
1 控訴人の被控訴人牛嶋に対する診療経過
(一) 原判決一六六枚目裏九行目の冒頭から同一七二枚目裏九行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 原判決一六七枚目裏六行目の「一部)、」の次に「控訴人本人尋問の結果により成立の真正の認められる乙第一一号証(一部)、」を加える。
(2) 同一六八枚目表一行目の「求めたところ、」の次に「〔」を加える。
(3) 同一六八枚目裏二行目の「乙F」から同九行目の「できない。」までを「乙第一一号証、乙F第一号証の二の中には、控訴人が同日被控訴人牛嶋に対し子宮炎及び限局性腹膜炎と診断した旨の記載があるが、同被控訴人は当時右病名を告げられておらず(同被控訴人本人尋問の結果)、腹膜炎の一般的症状は前示のとおりであるところ、被控訴人は腹痛、腰痛もなく控訴人のいうような身体のだるさもない健康体であったものであり、かつ、右乙F第一号証の二中の図示と右病名は符合しないので、控訴人が初診時に右腹膜炎等の診断をしたとは認め難いものがあるので、右書証は採用し難い。」を加える。
(4) 同一六九枚目表三行目の「一八、」の次に「前掲乙第一一号証、」を加える。
(5) 同一六九枚目裏一〇行目の「五号証、」の次に「弁論の全趣旨により成立の真正の認められる甲F第一号証、」を加える。
(6) 同一七〇枚目裏三行目の「例の」を削る。
(7) 同一七一枚目表一行目の「九日」の次に「ころ」を加え、同二行目及び三行目から四行目にかけての「薬丸病院」を「マザークリニック」に改め、同九行目の冒頭から同行目の末尾までを削る。
(8) 同一七一枚目裏七行目の「乙F」から同一一行目の「ないし」までを「乙F第一号証の一九ないし二一(但し、同号証の一九は昭和五四年一二月二五日以降の分)は、被控訴人牛嶋に対する診療録の一部であって、同月二五日から昭和五五年一月一〇日までの同被控訴人に対する診察結果の記載があるが、右証拠を全体として見ると、僅かな例外を別とすれば、同被控訴人に対する診察の結果として同人の身体の状態についてほぼ連日、整然とした体裁で、ほぼ同様な表現でそれほど変化のない内容が二、三行づつ丹念に繰り返し記載されており、右各書証は、その形式、内容を前示のような控訴人の被控訴人斉藤、同笠松に対する診療録と対比して見ると、控訴人が診察の際にその都度その結果を記載したと見るには極めて不自然というほかなく、前示(四の1の(二))のとおり(但し、被控訴人牛嶋が文書提出命令を申し立てたのは、原審昭和五六年(ワ)第七四七号事件第一回口頭弁論期日―昭和五六年九月一四日午前一〇時であり、控訴人が右文書を書証として提出したのは、同事件第一四回口頭弁論期地日―昭和五八年五月二四日午前一〇時である。)、右各書証についても、後日、同一時期にまとめて適宜の内容で作成されたのではないかとの強い疑いが残るので、右各書証は、直ちには信用し難いものがあるといわなければならず、これに沿う乙第一一号証の記載部分も同様である。」に改める。
2 診療契約に基づく債務の不履行
(一) 被控訴人牛嶋の診療の経過、腹膜炎、子宮内膜炎、子宮附属器炎などの子宮内感染症等を総称する女子骨盤内感染症(PID)の症状、所見については、原判決一七二枚目裏一一行目の冒頭から同一七四枚目裏二行目の「できる。」までのとおりであるから、これを引用する。
(二) 控訴人は、妊娠の有無の検査を依頼した被控訴人牛嶋に対し、同被控訴人は月経痛、腰痛や腹痛に悩んだことがなく、下腹部痛を訴えたとすれば、控訴人の乱暴ともいえる双合診によるものであったのに、各種の検査を経ることなく、問診、内診だけで初診時に入院適応のある卵管炎と診断したのは早急であって誤りというほかなく、さらに、その後の検査(昭和五四年一二月二四日の血液学検査や生化学検査)によるもその結果は前示のとおりすべて正常値であり、体温も控訴人病院の入院期間を通じてほぼ平熱か平熱に近い微熱であったところ、これらの状況を考慮することなく、同年一二月二四日に同被控訴人に対し入院治療適応のある左右卵管炎及び子宮炎と、昭和五五年一月六日ころに入院治療適応のある腹膜炎と診断したことも誤りというほかない。そうとすると、控訴人の右行為は診療契約に基づく医師の債務の不完全履行に当たり、前記子宮内容除去術施行による同被控訴人の入院治療は当日程度で足りると認められるところ、控訴人は、同被控訴人に対し昭和五四年一二月二五日以降入院治療を余儀なくさせたものであるから、右診療により同被控訴人の被った損害を賠償する義務があるだけではなく、初診時に妊娠、扁桃腺炎、咽頭炎を除く診断を受けたことに伴う診療により同被控訴人の被った損害をも賠償する義務があるというべきである。
3 被控訴人牛嶋の損害
被控訴人牛嶋の損害は、治療実費一一万一五四〇円及び慰謝料二〇万円合計三一万一五四〇円をもって相当と考えるが、その理由は、原判決一七六枚目表九行目の冒頭から同一七七枚目表三行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。
4 したがって、被控訴人牛嶋の本訴請求を右の限度で認容した原判決は正当であり、本件控訴及び附帯控訴は理由がない。
八 被控訴人塩満の損害賠償請求について
1 控訴人の被控訴人塩満に対する診療経過
原判決一七七枚目表七行目の冒頭から同一八五枚目裏五行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決一七七枚目表八行目の「の一、」の次に「二、」を加える。
(二) 同一七八枚目表五行目の「記載」の次に「及び控訴人本人尋問の結果(当審)」を加える。
(三) 同一七八枚目裏五行目の「三〇」の次に「、控訴人本人尋問の結果(当審)により成立の真正が認められる乙第一二号証(一部)」を、同一一行目の「カンジダ」の次に「性」をそれぞれ加える。
(四) 同一七九枚目表六行目の「三四」の次に「、乙第一二号証、」を、同一〇行目の「カンジダ」の次に「性」をそれぞれ加える。
(五) 同一七九枚目裏一行目、二行目の「採用することができない」を「疑問の残るところである」に改め、同五行目の「前掲乙」の次に「G」を、同七行目の「一一、」の次に「前掲乙第一二号証(一部)、」をそれぞれ加え、同八行目の「右」を「被控訴人塩満」に改める。
(六) 同一八〇枚目表一行目の「前日に」の次に「長い時間」を加える。
(七) 同一八〇枚目裏七行目の「た。」の次に「被控訴人本人作成の陳述書(乙第一二号証)においても、『同日には妊娠は異常がなかった。』旨の記載がある。」を加え、同一〇行目の「妊娠中毒症、」を削り、同一一行目の「カンジダ」の次に「性」をそれぞれ加える。
(八) 同一八一枚目表六行目の「一部)」の次に「、乙第一二号証」を加え、同八行目の「採用することができない」を「疑問の残るところである」に改める。
(九) 同一八一枚目裏一行目の「一号証の一、」の次に「二、」を加え、同二行目の「の二」を「の三」に改め、同七行目の「)、」の次に「乙第一二号証(一部)」を加える。
(一〇) 同一八二枚目裏八行目の「内膜症」の次に「又は子宮内膜炎」を加え、同九行目の「子宮内膜症について」を削る。
(一一) 同一八三枚目表八行目の「病床日誌」を「温度板」に、同一一行目の「同月」を「同年二月」にそれぞれ改める。
(一二) 同一八三枚目裏四行目の「トランスアミナーゼ」の次に「のGPT」を、同六行目の「TTT」の次に「、トランスアミナーゼのGOT」をそれぞれ加え、同行目の「クロール」を「カリウム」に、同七行目の「カリウム」を「ナトリウム」にそれぞれ改める。
(一三) 同一八四枚目裏四行目の「同月」を「同年三月」に改め、同七行目及び同一一行目の各「内膜症」の次に「等」を加える。
(一四) 同一八五枚目表一行目の「切った。」の次に「被控訴人塩満は右薬丸病院で、『カンジダ膣炎、膀胱炎、卵巣機能不全』と診断され、前二者については昭和五五年五月二六日まで、その他の疾病については同年七月二九日まで同病院で治療を受けた。」を加え、同二行目の「乙G」から同六行目の「できない。」までを「乙G第一号証の四五ないし五七は、被控訴人塩満に対する診察録の一部であって、同年二月一日から同年四月二一日までの同被控訴人に対する診察結果の記載があるが、右証拠を全体として見ると、同被控訴人に対する診察の結果として、同人の身体の状態についてほぼ連日、整然とした体裁で、ほぼ同様な表現でそれほど変化のない内容が二、三行づつ丹念に繰り返し記載されており、右各書証は、その形式、内容を、前示のような控訴人の被控訴人斉藤、同笠松に対する診療録と対比して見ると、控訴人が診察の際にその都度その結果を記載したと見るには極めて不自然というほかなく、右各書証についても、被控訴人渡辺に関する前記判示(四の1の(二))(但し、被控訴人塩満が文書提出命令を申し立てたのは、原審昭和五六年(ワ)第七四八号事件第一回口頭弁論期日―昭和五六年九月一四日午前一〇時であり、控訴人が右文書を書証として提出したのは、同事件第一四回口頭弁論期日―昭和五八年五月二四日午前一〇時である。)のとおり、後日、同一時期にまとめて適宜の内容で作成されたのではないかとの強い疑いが残るので、右各書証は、直ちには信用し難いものがあるといわなければならず、これに沿う乙第一二号証の記載部分も同様である。」に改める。
2 診療契約に基づく債務の不履行
(一) 被控訴人塩満に対する診療の経過、汎発性腹膜炎等の病気の症状、所見等に関する認定については、原判決一八五枚目裏七行目の冒頭から同一八八枚目裏二行目の「できる。」までのとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(1) 原判決一八五枚目裏八行目及び同一八六枚目表六行目、七行目の各「カンジダ」の次に「性」を加える。
(2) 同一八六枚目裏三行目の「子宮内膜症」の次に「又は子宮内膜炎」を加える。
(3) 同一八八枚目表二行目の「五日」の次に「ほど」を加える。
(二) 前記認定事実によれば、控訴人が、昭和五四年六月六日に、被控訴人塩満に対し、その症状から見て外陰炎と診断したのは正当といえるけれども、カンジダ性膣炎と診断したのは細菌検査の結果から見て誤りというほかない。また、控訴人は、同年一二月二二日に治療適応の慢性腎盂炎と診断しており、同被控訴人が側腹部の痛みを訴え、控訴人は触診と超音波断層撮影結果を考慮したことは認められるものの(乙G第一二号証)、問診などによる発熱、多尿の症状の確認や尿からの一般菌の培養検査、尿沈渣の検査、CRP検査を含む生化学検査などをした形跡がないことに、前示のとおり他の病院での診断では右疾患を否定する診断がなされたことや腎盂炎を慢性と診断したのは、昭和五二年七月二六日に急性腎盂炎と診断した(右急性腎盂炎の診断も前示のとおり当時他の病院で否定されている。)ためであることを合わせ考えると、右治療適応の慢性腎盂炎の診断は誤りというほかない。控訴人は昭和五五年一月二一日に治療適応の附属器炎、限局性腹膜炎及びカンジダ性膣炎と同年二月二五日に手術適応の子宮内膜炎又は子宮内膜症とそれぞれ診断しており、同被控訴人が同年一月二一日、二月二五日に右側腹部痛を訴え、触診をしたことは認められるものの、同年一月二一日の細菌検査の結果(乙G第一号証の二二)でカンジダは陰性であること、同月八日の血液学検査で白血球数が正常値であること(乙G第一号証の二五)、控訴人は、同月二一日及び同年二月二五日の診断に際し、細菌検査、血液学検査、生化学検査をしたり、赤血球沈降速度を測定した形跡はないこと、同被控訴人は、同年二月一日から四月二一日まで平熱に終始していること(乙G第二号証の一から七)を考えると、前記カンジダ性膣炎の診断、治療適応の附属器炎、限局性腹膜炎或いは子宮内膜炎等の診断は誤りというほかない。さらに、同年三月三一日ころには、長期にわたるほぼ同様の抗生物質の投与によりカンジダ膣炎を誘発させたものである。そうとすると、控訴人の右行為は、診療契約に基づく医師の債務の不完全履行に当たり、控訴人は、診断の誤りにより、被控訴人塩満をして遅くとも同年二月一日以降四月二一日まで不必要な通院治療を受けさせたものであるから、右診療により同被控訴人の被った損害を賠償する義務があるというべきである。
3 被控訴人塩満の損害
被控訴人塩満の被った損害は、慰謝料五〇万円をもって相当と考えるが、その理由は、原判決が、同判決一九〇枚目表七行目の冒頭から同裏九行目の末尾までに説示するとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決一九〇枚目裏八行目の「牛嶋」を「塩満」に改める。
4 したがって、被控訴人塩満の本訴請求を右の限度で認容した原判決は正当であり、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がない。
九 被控訴人らの控訴人に対する本件訴状の送達については、原判決一九〇枚目裏一一行目の冒頭から同一九一枚目表三行目の末尾までのとおりであるから、これを引用する。
一〇 以上のとおり、被控訴人小柴、同笠松、同関に対する本件各控訴に基づき、かつ、被控訴人斉藤、同渡辺の各附帯控訴に基づき、原判決中、被控訴人小柴、同斉藤、同笠松、同渡辺、同関に関する部分を主文第一項のとおり変更し、被控訴人斉藤、同渡辺、同牛嶋、同塩満に対する本件各控訴、被控訴人関、同牛鳴、同塩満の各附帯控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九五条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官伊藤滋夫 裁判官宗方武 裁判官飯村敏明)